皆さん、こんにちは!
インスタ告知から大分日にちが経ってしまい申し訳ございません。。。
前回ご紹介したグルカサンダル1便目の製作が大詰めとなる中、コロナウイルスの影響で毎度変わるルールに悪戦苦闘しておりました 泣
先月から今月およそ中旬までこちらのグルカサンダルを作成しているボローニャが最も制限が厳しい地域に指定されてしまったため、色々と大変でした。。。
なんとか無事に当初予定から大きくずれ込むこともなく、来週には出荷が行えそうです。
とりあえず一安心。。。ということで、今回の投稿をスタートします。
早速ですが、皆さんはこちらの靴を見てどのような印象を受けますか?
一見なんの変哲もない革靴に見えるのではないでしょうか。
この靴をみてすぐにレベルソ仕立てに気付いた方は、相当な革靴愛好家だと思います。
しかし、実はその技術部分そのものには意味はありません。
今回はこの靴が何故、このような仕様・デザインで仕立てられたのかについてご紹介しようと思います。
きっと「本物のイタリア靴」に興味をもっていただけるのではないでしょうか。
イタリア靴と聞くと、おそらく多くの方が色気があり、どことなく派手な印象を持っている方が多いのではないでしょうか。
しかし実際のイタリア靴は、むしろ非常に保守的で、かなり伝統や文化を重んじる傾向が強いということをご存知の方は少ないと思います。
事実、このような昔ながらの靴作りをしているところはほとんどなくなってしまいましたが、それでも一部限られた老舗工房などでは未だにしっかりとこうした靴作りが残っています。
本来のイタリア靴デザインというのは非常にルールに厳格で、その限られた条件下で選択肢を増やすものこそが技術力でした。
こうした文化があった為、イタリアでは靴作りの様々な製法や仕様が生み出されたのです。
仕様や製法を売りにするイタリア靴が多いのは、こうした文化の名残といえます。
この歴史については、またの機会に紹介します。
すべてを紹介していると一生終わらなくなってしまうので、今回は「フォーマル」と「カジュアル」について紹介していきます。
この内どちらの靴を作るのか、というところからイタリア靴作りはスタートします。
これはイタリア靴に限らず当たり前のことですが、ここからが非常に厳格なのが本物のイタリア靴の特徴です。
さて、ここからはこちらの靴を見ていくことにしましょう。
皆さんはこちらの靴を「フォーマル」、「カジュアル」どちらの靴だと思いますか?
おそらくほとんどの方が「フォーマル」だと考えると思います。
しかし迷った、ないしは「カジュアル」だと考えた方はこのシボ革が引っかかったのではないでしょうか。
結論から言ってしまえば、こちらは「フォーマル」な靴です。
しかしシボ革に疑問を感じた方も、同時に正解といえます。
むしろそのように感じた方のほうが、ここから先をより楽しんで頂けるかもしれません。
革の表情や色は、この二つの概念に大きく影響を与えます。表情が豊かなシボ革や牛以外の革は、そうした表情がある分「カジュアル」な素材として扱われます。
その為この革を選んだ段階で、フォーマルよりもカジュアルな傾向が強くなってしまいます。
靴に詳しい方は、デザインが内羽根だからフォーマルだと主張するかもしれません。
ただフォーマルな靴を作る為内羽根を採用しているのに、表情のある(カジュアルな印象の)革を使っているというのは少しおかしいと感じませんか?
それだけでは「矛盾」した状態の靴が出来上がってしまいます。
こうした状態を最も嫌うのが、本来のイタリア靴です。
この「矛盾」をどのようにして解決するのかというところこそ、その職人の腕の見せ所といえます。
今回、それに対して採用されている仕様が、前述した「レベルソ」という技術です。
この「レベルソ」という技術は、縫い目を表に出さない縫いの方法であり、その分すっきりとした印象となります。
分からない方は革靴のアッパーを見て下さい。こちらの靴のアッパーには一切縫い目がありません。
内羽根デザインは様々ありますが、基本的には縫い目や飾りのデザインが少ないもの程よりフォーマル度合いが上がります。
内羽根プレーントゥやストレートチップデザインがよりフォーマルとして扱われ、それに対し内羽根セミブローグやフルブローグはよりカジュアルなデザインとして扱われるところでもそれを見てとることが出来ます。
ストレートチップとプレーントゥでは、プレーントゥのほうがよりフォーマルな靴として扱われますが、それは縫い目がよりシンプルなデザインになるためです。
少しだけ脱線しますが、そうなるとホールカットデザインは更にフォーマルなデザインなのかというとそう単純ではありません。
基本的にこのフォーマルの基準というのは、昔の貴族の装いや軍隊の式典用の正装がベースになっています。つまりそれが結果的に縫いなどの飾りが少ない靴程、よりフォーマルとして扱われたに過ぎず、こうした時代にこのような場面で一般的には用いられることのなかったホールカットデザイン靴の場合少し扱いが異なるのです。
要するにホールカットデザインの場合、こうした背景から簡単にフォーマルなデザインだとはいえないのです。
しかしとても面白いことに、ホールカットは最もドレッシーなデザインとして、結婚式やパーティー、観劇などの華やかな場面における正装に用いられます。
つまりホールカットデザインはフォーマルにおける「ドレスシューズ」の立ち位置にあるといえます。
話を戻しますと、今回仕様として用いられている「レベルソ」という技術は、縫い目を隠すことによってよりフォーマルなデザインにするため用いられています。
また、この仕様がプレーントゥという最もフォーマルなデザインに用いられている点も注目すべき点です。
ここまでを簡単にまとめると、シボ革というカジュアルな要素を最もフォーマルなプレーントゥに採用し、更にそこに縫い目を隠す「レベルソ」仕様を取り入れることで、よりフォーマル度合いが強いプレーントゥにした、ということです。
「矛盾」を如何にしてなくしていくか(今回であればシボ革というフォーマルデザインにおける「矛盾」をどのように解消していくか)ということに、とても厳格なのが本来のイタリア靴です。
こうした考えの元、イタリアでは様々な仕様や製法が生まれました。
技術の高さは例えるならば引き出しの多さであり、こうした制限の中でもより自由な靴作りを可能にする武器なのです。
実はこの靴、もう一つだけ通常とは異なる特徴があります。
つま先からクビレにかけてのダシ縫いピッチ(縫いの幅)が異なるのです。
つま先からクビレにかけて、ピッチが徐々に細かくなっています。
これは靴のクビレ部分をより華奢にみせ、つま先部分との対比でよりメリハリある見た目にするための仕様です。
ピッチの細かさも「フォーマル」と「カジュアル」に影響を与える一つの要素ですが、細かいほどより華奢に見える為フォーマルなデザインとして扱われます。
今回の場合ピッチを揃えずクビレにかけてより細かくすることで、視覚効果が生まれより華奢でありながら立体的に見せることを狙っています。プレーントゥというスタンダードデザインに対して、「見え方」から表情を出す工夫がされています。
こうした「見え方」というアプローチもイタリア靴作りの特徴なのですが、これはまたの機会にでもご紹介しようと思います。
最後にイタリアのある伝説の靴職人の口癖を紹介したいと思います。
「美しく靴を作れる職人は大勢いるが、美しい靴を作れる職人は稀だ」
彼は様々なイタリア最高峰ショップのお抱え誂え靴職人として活躍し、自身の靴には決して自分の名前やブランドを付けることはありませんでした。
有名になることを望まず、ひっそりと自分の納得する靴を作り続けた職人です。
しかしそれでも彼の名を聞きつけた多くの顧客が彼の元を訪れました。
彼はそうした個人顧客に最低限のリクエストを確認するだけで、その他の部分は全て彼が決めるという条件の下でのみ靴作りを行いました。
そんな彼の顧客には靴職人も少なくなく、現在は高齢の為引退したものの極たまに市場に出回る彼の靴は靴職人に買われていきます。
そんな彼の言う「美しい靴」の最低条件こそ、今回紹介した矛盾のない意味ある靴なのです。
それを満たしたうえで、更に美しくなければ「美しい靴」ではなく、それ故美しい靴を作れる職人は稀なのです。
これは決してイタリア靴だけの文化ではありません。
実際前述したように、靴のデザインにおけるフォーマルとカジュアルという考え方は世界的に認知されています。つまりこうした側面に基づいて、多くの国で靴作りは行われていました。
古靴が好きな靴愛好家の方は、こうした事を意識して靴を見てみるとその作り手の意図が見えてくるかもしれません。
イタリアがその点特別なのは、とても少なくなってしまったもののこうしたモノ作りを続けている工房が現在でも残っているというところです。
決して有名工房だからといって、こうしたことが継承されて生き続けているわけではありません。
今回のように少し異なった見方をしてみると、そういったことも見えてくるかもしれません。
仕様や技術そのものに価値はありません。それが意味ある形で用いられない限り、それはあくまでも意匠に過ぎないのです。
今回ご紹介した見方は、ほんの一例に過ぎません。
今回は「フォーマル」と「カジュアル」という視点から、一例としてどのようにしてこの靴が「フォーマル」な靴として作られたかをご紹介致しました。
「カジュアル」な靴の場合、自由度が高くなる分デザインのバランスを取るのが難しくなります。
このバランスを取るのにも、器用に仕様や技術を使い分けるのがイタリア靴の面白いところです。
長くなってしまいましたが、少しは楽しんで頂けたでしょうか。
今回はこの辺で締めくくらせて頂きます。
また次回お楽しみに!
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