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執筆者の写真Bottega di Pinocchio

Collezione SANTI cashmere 2021AW 2




結局のところSANTIのハンドフレームニットは何が特別なのか。。。


今回はそちらを紹介しながら、少しずつ今年度のコレクションもお披露目していこうと思います。


皆さんはニットのどこをみてその品質を判断していますか?


カシミアニットであれば触れた感触であったり、柔らかさであったり、もう少しマニアックな視点で見ているのであれば、ゲージや糸ブランドといったところではないでしょうか?


実はそのどれもが生産現場から見たときにあまり正しいとはいえません。

特に多くの方がその判断の基準にしているであろう、柔らかさというのはむしろ品質的に見たときにはマイナスであることのほうが多いといえます。

少し乱暴にいってしまえカシミア=柔らかいというのは正しくありません。

正しくは「カシミア=柔らかくなる」というのが正解です。


また一部で超ハイゲージニットを崇めるマニアックな愛好家もいますが、糸にはそもそも適正ゲージがあり無闇矢鱈にハイゲージにするというのは設計的にあまり良い結果を生みません。


ハイゲージになればなるほど使用される糸は細くなければならず、さらに適正ゲージ以上の設計にした場合とてつもなくデリケートな製品に仕上がります。少し引っ掛けただけで簡単に解れてしまい、さらに超ハイゲージが故に直すにも受け付けてくれるところを見つけるのも一苦労です。


糸ブランドで品質を判断するというのも決して確実ではありません。

そもそも同じメーカーの糸であっても様々なグレードがあるため、一概にそれだけで判断は出来ません。

さらにいえば超一流の糸を用いたとしても、それに見合う設計や仕様を採用しない限り最大限にその良さを引き出す事は出来ません。



男性の方であればジャケットの生地などで考えてみるとわかりやすいかもしれません。


一時期から生地ブランド名を全面に出してジャケットやスーツが販売されるようになりましたが、同じ生地(番手も含めて同じ)を使っていても某スーツチェーン店で売られているものと、誂えやそれなりの価格で販売されているものとでは全くの別物であったという経験はありませんか?


その違いは紛れもなく設計や仕様によって生じるものであって、ニットにも全く同じ事がいえます。


良い材料を使えば必ずしも美味しい料理が作れるというわけではありませんよね?

ジャケットやニットも同じです。

良い素材を使ったからといって必ずしも良い製品になるというわけではありません。

極端な話、素材を活かすも殺すも作り手次第であるわけです。


それではいったい何をもってニットの品質を判断すれば良いのでしょうか。



結論からいってしまえば、それは度目(どもく)と縮絨具合です。

(ただし、これはあくまでもベーシックでかつクラシックなモデルのニットに関してのみ言及しています。)


度目とは編目ループの大きさであり簡単にいってしまえば編目の密度です。ゲージは編目ループのピッチを示すものなので、度目とは異なります。


度目を小さくすると目がつまり密度が上がります。これを「度詰」といいます。

それに対して度目を大きくすると目が甘くなり密度が下がります。これを「度甘」といいます。

密度が上がるとニットは伸びに対し耐久性をもち、さらに保温性が向上します。

逆に密度が下がるとニットは伸びやすく耐久性を失い、さらに保温性を失います。

そして後に説明する先程挙げた「縮絨」という工程においても、この「度目」は非常に重要なポイントになります。


ニット作りには自動編み機による自動生産と手動編み機(ハンドフレーム機)による手動生産がありますが(もちろん手編みもありますが、ここでは上記2方法にのみ着目して説明していきます)、この「度目」という点においてハンドフレーム機は自動機よりもよりタイトな設計を行うことに長けています。


これは自動機において「度目」を推奨値以上にきつくし過ぎてしまった場合、糸切れや針折れのリスクが高くなってしまうためで、それは自動で相当数を生産する自動機においてはかなり致命的なリスクといえます。

なぜならばその不具合が発生して以降の製品が全て不良になるだけでなく、機械そのものが故障してしまった場合かなり大事になってしまうためです。

こうした理由から自動機生産においては、この「度目」を推奨値以上に詰めるという事はまず行われません。


それに対してハンドフレーム機における生産は職人の技術次第でかなり攻めたタイト設計のニットを仕上げる事が可能です。

ここで最も重要なのは「職人の技術次第で」という部分で、ハンドフレームニットの面白さでもありますが、ハンドフレームニットにはそれを手掛けた職人の技術レベルがとても良く表れます。。

同じハンドフレームニットであっても良い職人によって仕立てられたものと、そうでないものとではその差は歴然です。


それに対して自動機によるニット生産はハンドフレーム機とは異なり一点一点の差はほぼなく、またより手軽に複雑な編地や模様を施したデザインニットを仕立てることに長けています。つまりタイトな設計を追求するというのには向いていません。


しかしハンドフレームニットであっても設計に特別な技術を入れ込めないのであれば、そもそもハンドフレームニットである必要はありません。

そして実際そういったハンドフレームニットも多く、事実そういったニットはこうした技術的な部分には触れず「手間が掛かかること・独特な風合い」といった説明に終始してしまうのです。





恐らくここまででハンドフレームニットにおいて設計、特に「度目」という点が非常に重要であるということは知って頂けたのではないでしょうか。


ここからはもう少しだけ「度目」という点に着目して説明を続けます。


度詰という設計は、縮絨という洗いの工程においてもとても大きな意味をもちます。

この縮絨という工程は糸に付着したロウを取り除き、ニットを自然な風合いに仕上げる為の工程です。

ニットはこの工程を経ることで柔らかく変化するのですが、その工程以前はかなり硬い状態です。皆さんが柔らかいイメージを持っているカシミアでさえも、この工程以前はとてもゴワゴワで硬い質感なのです。綿糸と比べても十分に頑丈な硬さです。


(縮絨前のカシミアニット。柔らかいカシミアのイメージとは異なり、ゴワゴワして硬い質感。)


多くの方はカシミアときくとデリケートな素材イメージを持たれていると思いますが、ここからも分かる通り元はそこまで繊細な素材ではありません。

実は柔らかくなる過程(つまり縮絨過程)を経ることで、徐々にデリケートになっていっているというのが正しいといえます。


「カシミアは柔らかい」のではなく、「カシミアは柔らかくなる」というのが正しく、その柔らかさは糸がほぐれて毛羽立つことで生じます。

カシミアはウールと比べて一本一本の繊維が非常に細く、それ故により柔らかい感触になるわけです。


毛羽立ちが多いとピーリングが生じやすくなったり、チクチクした着心地になるだけでなく、保温性も下がり型崩れや伸びに極端に弱くなるため耐久性に欠けたニットになってしまいます。

つまりカシミアニットとしては良いことが何一つありません。


本来カシミアニットの理想形は「最低限の縮絨に留めたニット」であり、そのためカシミア=柔らかいというのは「良いカシミアニット」を選ぶ上では間違いといえます。


それでは「最低限の縮絨に留めたニット」とはどういったニットなのでしょうか?

それを理解するためには、縮絨という工程の意味を考えてみる必要があります。


この縮絨という工程、これだけで一つの職業として成り立つほど奥のふかーい世界ですw

そのためこちらではとても簡単に、若干乱暴なくらい簡素に説明していきます。


この工程はカシミアのロウ分を取除き、かつ「編み目を適度に埋めること」を目的として行われます。

特にここでは後者「編み目を適度に埋めること」に注目してください。


この編み目を埋めるというのは、糸を適度にほぐすことで編み目の密度を高めることを意味します。

つまりもともと毛羽立ちが少ない硬い状態のカシミア糸が、縮絨工程を経ることで毛羽立ちそれ故に編み目が詰まっていくというイメージです。


ここでいくつか前述した事を思い出して頂きます。

まずは「度目」という言葉。

そして次にカシミアが柔らかくなるということは=毛羽立ちが多く、そしてそれはニットの品質にとっては良くないということです。


結論から言ってしまえば、理想的なニットの品質は「毛羽立ちが少ない」ことです。

そしてそれは縮絨によって決まり、その目的の一つは「編み目を適度に埋めること」です。

つまり編み目が元から詰まったニットの場合、この縮絨工程を最低限に留めることが出来ます。

この編み目が元から詰まったニットというのが、前述した「度詰ニット」であり、ハンドフレーム機が得意とするタイト設計ニットです。


こうした視点からとことん度詰設計に拘り、ハンドフレーム機を改造し究極の度詰ニットを追求したのがSANTI cashmereによるハンドフレームニットです。

私の知る限りこれ以上の度詰ニットは存在しません。


そしてさらにこちらにも並々ならぬ拘りが。。。



あまり見栄えの良い画像ではありませんが、こちらはこの超度詰仕様用に調合した縮絨溶剤です。

このタイト設計による利点を最大限引き出せるよう何度も試行錯誤を繰り返してこのレシピにたどり着いた、SANTIニットに欠かせないもう一つの拘りです。


「度目」と「縮絨」それぞれを極限まで追求し、最上級の糸で仕立てられたニットは間違いなく今までのニットとは一線を画します。


触れた時にはその硬さに驚き、着用した時にはその硬さからは想像できない程の着心地良さ・保温性に感動するはずです。

最低限の縮絨で仕上げたこの度詰ニットは毛羽立ちがほとんどない為、肌に触れたときにほとんどチクチクすることがありません。素肌に着用すれば、そのスムースさの虜になってしまいます。


さらに数年後、きっとその耐久性の高さに気付かされるはずです。

ニットでありがちなリブ周りの伸びや、型崩れに強いのもこのSANTIクオリティならではの特徴です。

数十年と着用して頂ける、SANTIが仕立てるニットは正にそんなニットです。


さてここまで「良いニット」の条件を説明しながら、SANTI cashmereニットならではのクオリティを紹介してきました。

長々と書いてきましたが、ここまで読んで頂いた上で今度は再度ところどころに私が張り付けたSANTIニットの画像を拡大してご覧になってみて下さい。その毛羽立ちのなさを実際に確認していただけるはずです。


皆さんはこれほどまでに毛羽立ちが少ないカシミアニットと出会ったことはありますか?





最後にとっても重要な事をもう一点。。。


SANTI cashmereニットは自宅で簡単に洗濯出来ます。

ポイントは3つ


1、裏返してネットにいれること

2、熱湯で洗わないこと(必ず30度以下)

3、柔軟剤は極少量


この3点だけ注意すれば着用するたび自宅で気軽に洗濯可能です。

極限まで目の詰まったSANTIのニットは洗濯による型崩れの心配がありません。

むしろ着用する度に洗濯することで伸びも解消され、元通りになります。


ただし柔軟剤は最小限ないし使用しない洗いが推奨されます。

これは柔軟剤が毛羽立ちを促進させてしまうためで、ニットを長持ちさせるためには柔軟剤は最小限に留めておくのが理想的です。

ウール専用洗剤(エマール)などを用いる場合は柔軟剤は使わずに、通常洗い用の洗剤を用いる場合は極少量の柔軟剤を使って洗濯するのがおすすめです。


SANTIニットはこのように日々の洗濯を繰り返す事で、年を重ねる毎にゆっくりと自然に柔らかな風合いへと変化していきます。

この風合いは縮絨によって無理やり柔らかく変化させられたものとは異なり、とても雰囲気のあるエイジングを楽しむことが出来ます。

これがSANTI cashmereを「育てるニット」として紹介している理由です。


あまりにもこだわりを詰め込み過ぎたアイテムだけに前置きがとても長くなってしまいましたが、ほんの少しでも興味をもっていただけたのであれば幸いです。。。


次回こそ、今期の新作を一挙にご紹介していきますので、もう少々SANTI cashmereの投稿にお付き合い下さいw



Bottega di Pinocchio
































この2つの方法による最も大きな違いは、掛かる時間や手間などではなく、その「設計と仕様」を追求する上で何が求










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