オリジナルサンダル完成から3年、満を持してローンチしたグルカサンダルはPezzettinoサンダルシリーズを代表する超人気モデルになった。
こちらのモデルも完成までにそれなりの期間を要したのだが、プロトタイプが完成したタイミングが絶妙に良くなかった。。。笑 まさかまさかの冬の終わりがみえてくる2月、今でも良く覚えているが私がNapoliでとある仕事をしていた時に完成の連絡が入った。
本来この時期はすでにサンダル生産に入っていなくてはならない時期で、ここまで仕上がりが遅くなってしまったのであれば次年にローンチをずらすという案もあったのだが。。。そこまで爆発的に販売は進まないだろうと甘く見ていて大目玉を食ったのは良い思い出だ。この年は増産に増産を重ねて、結局10月末までほぼほぼサンダル生産にラインの大半を費やした。

さらに驚きなのはそんな予想外の初年度の人気が現在までも底堅く続いているという事実で、我々のサンダル生産は毎年前年12月末からスタートしていたりする。なんせすべての工程をひとりの職人が手掛けているので、一足一足とてつもない時間が掛かってしまうためだ。
あまりの生産の過酷さから一時はアウトソーシング出来る術を模索したがその仕様の細かさ故に全くお話にならず早々に断念した経緯があり、決して無駄にひとりで頑張っているわけではないことは一応付け加えておく。
実はこのグルカサンダルのアッパー構成は少し特殊だったりする。実際これが理由で初年度はそこまで販売は進まないだろうと考えていた程で、当時のPezzettinoの感覚としては世の中に出すには「ちょっと早すぎる」のではないかと思っていた。
当時日本ではめちゃくちゃグルカサンダルが流行っていたが、どれも基本的に「靴」として作られているような感じだった。グルカサンダルという名前の起源としてはそれで正しいのだが、Pezzettinoが作るグルカサンダルはあくまでもサンダルに靴作りの要素を入れ込むというもので履き心地は一般的にイメージされるものとは異なっていた。これが「ちょっと早すぎる」と感じていた理由に他ならない。

名前の起源としてのグルカサンダルは靴を念頭に作られていたもので、足をかかととアッパーでしっかりとホールドするように設計されたものだった。今でも根本的にグルカサンダルといえばこうした作りをしているのが一般的だと思う。
対してPezzettinoのサンダルはあえて絶妙に緩いフィッティングになるよう仕上げている。アッパーもかかとストラップも足をホールドするような締付けはない。
というのもPezzettinoはもともとグルカサンダルを作りたくてここに行き着いたわけではなくて、別にモチーフとしていたサンダルがあった。

当初Pezzettinoが作ろうとしていたサンダルのモデルはAssisiのFrancescoのアイコンにもなっているFrancescoのサンダルだった。このサンダルにはいくつかバリエーションがあるのだが、絵画や彫刻でモチーフとされる場合大体は甲とワイズで足を掴むタイプのサンダルで描かれることが多い。このモデルに目をつけたのも、元々Pezzettinoのサンダルはタイプの異なる視点から徐々に色々なモデルを作っていきたいという狙いがあったためであった。
オリジナルサンダルは親指ストラップをワイズストラップで掬うという構成で仕上げたが、次段階としてはワイズと甲ストラップで構成するサンダルを作りたいという考えがすでにあった。
言ってしまうと今後のサンダルシリーズ投稿のネタバレになってしまうのだが、そもそも最初の段階からシリーズ展開のコンセプト自体は明確にあったのだ。それはサンダルに少しずつ革靴のアプローチを付け加えていくという事で、結論として最新のモデルなんかは見た目こそ全く革靴になんて見えないが全4モデルの中で最も革靴的なアプローチがされているモデルであったりする。

とはいえ我々の前提は「サンダルは革靴とは異なる」ということだから、勿論唐突に革靴の要素を入れ込むということはしない。サンダルは負荷がどこに掛かるかをしっかりと見極めて、その部分の負荷を分散させるためにやはり「アバウト」でなくてはならない。負荷が掛かる部分が大きければその分リスクは高くなるというのは前回書いたが、その視点でいえば本来グルカサンダルは足全体を包み込むデザインになっているが故によりリスクが高いといえる。
実際グルカサンダルデザインのサンダルは至る所にそのリスクが潜んでいる。例えば編み編みになっているきりっぱなしの革の角、かかとやかかとのストラップなんかはホールドする作りになってしまっていると至る所で足が削られる。とはいえこれを単純な思考で「アバウト」に作るとなると、おそらくつま先を覆うデザインか親指ストラップを配置しなくてはならなくなる。なぜならワイズと甲共にゆるく作ってしまえば足はそのまま滑り込んでいってしまうからである。
このデザインの肝は甲ないしはワイズのどちらかで足をホールドしなくてはならないのだ。つまり「アバウト」にする塩梅がかなーり難しい。

Pezzettino職人はやはり恐ろしい。。。
もともと次シリーズのデザインをワイズホールドのモデルにすると決めていた職人は、オリジナルサンダルのワイズストラップにそのためのデータがとれるようちょっとした仕掛けをしていたのだ。この事を初めて知った時は若干引いてしまった(笑)この職人はデザイナーとして類稀なる才能を持っているにも関わらず、根底はめちゃくちゃ理詰めの職人なんだと再認識するきっかけになった。
この仕掛けについては企業秘密とさせてもらうが、結果として生まれたのがPezzettinoのグルカサンダルのワイズ部分のホールド感である。このホールド感はなかなかに絶妙なはずで、足を締め付けるよう感じではないのに足が滑り込んでしまうということもないし、だからこそかかとストラップも補助的なフィッティングで良いため本来であれば負担が掛かってしまう部分が多いはずのグルカサンダルデザインでありながらどこにも負担が掛かっていないというなかなか秀逸な設計だったりする。
とはいえ当時の感覚からするとグルカサンダルにはタイトフィットが求められているフシがあったので、それと真逆方向にいっているPezzettinoのサンダルがそこまで売れるはずはないと、ある意味少し市場の要求に対して「早すぎる」のではないかという考えでいたのだ。
実際このグルカサンダルを販売し始めた当初は着用感やサイズ選択に関しての説明にめちゃくちゃ苦労をした覚えがある(笑)見た目にはアッパーとかかとストラップがある故に皆がイメージするのが革靴に準じたフィッティングなのだ。。。苦笑 そうした質問に対して「これはあくまでもサンダルです」という一言で済ますわけにもいかず、口頭で詳細を説明するだけならまだしも、場合によってはとてつもない長文の文章で回答したりしたものだった。。。とはいえフタを開けてみればとにかくデザインがウケて、今日に至るまで毎年まさかひとりの職人がすべてを手掛けているとはとても思えないような足数を販売させてもらっている。
デザインが受け入れられてここまで人気アイテムになった事は本当に嬉しいし、お陰かどうかはわからないがそれによってこのいわばちょっと風変わりな履き心地に疑問を持たれることもなくなったが、実は生産に関わった身としてはちょっと淋しかったりする。。。(笑)

どうです、皆さん?このサンダルびっくりするほど足馴染みも良くて、靴擦れなんかとは無縁じゃありませんか?
足を完全に覆ってしまわないデザインは涼しくて、そして何より脱着が楽で、それはやっぱりしっかりと「サンダル」してますよね(笑)
Pezzettino職人はこのグルカサンダルの設計に例の仕掛けをして、次は甲ストラップのホールドを前提としたデザインにそこで得たデータを用います。
こうしてPezzettinoサンダルシリーズに少しずつ革靴的なアプローチが付け加えられていくのです。
Bottega di Pinoccho
Yuki Takemasa
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