皆さん、こんにちは!
インスタグラムに近日中にこちらのブログを投稿すると案内をしておりましたが、すこし時間が掛かってしまいました。。。w
予告通り、今回は革靴のケア方法についてご紹介していきます!
雑誌などで紹介されている方法とは、全く異なるので少し驚かれると思います。
しかしイタリアでは最もスタンダードな方法であり、タンナーでも推奨されている磨き方です。
最後まで見て頂ければわかりますが、革靴磨きは決して難しくも手間が掛かるものでもありません。
日本で人気のシューシャインのようなビカビカした輝きではなく、革本来の良さを引き立てるには間違いなくこちらの方法がおすすめです。良い靴にこそ採用してほしい磨き方といえます。
それでは早速。。。

今回の磨きに利用したものは以下の通りです。
簡単な用途も記入しておきます。
1、馬毛ブラシ
埃をとるのに用いる
2、豚毛ブラシ
各種クリームをなじませるのに用いる
3、布(クリームを塗ったり、とったりする用)
タオルなどの毛羽立ちがあるものではなく、綿100のTシャツのような平らな生地のもの
4、デリケートクリーム(今回使用のものは日本未発売の特注品ですが、日本で市販のものでも代用できます)
後程説明します
6、乳化性靴クリーム(今回使用のものは日本未発売の特注品ですが、日本で市販のものでも代用できます)
後程説明します
7、シューツリー
靴を成形しながら磨くのに必須
8、ポリッシュグローブ(別になくても大丈夫です。)
あると楽です。
さて一通り道具を紹介させて頂きましたが、まずは先にメンテナンス頻度について触れていきます。
今回の方法で磨きを行った場合、よほど劣悪な使い方をしない限りは2ヵ月に1度程度のケアで問題ありません。
かなり頻繁に使用した場合であっても、1ヵ月に1度程度で良いでしょう。
靴磨きがメンドクサイ私は、よく使う靴で2カ月に1度重い腰を上げてやるようにしていますw
おそらくご覧の方々の中には、あまりに少ないケア頻度に驚かれる方もいるのではないでしょうか?
そんな方は。。。
たぶん雑誌やら、なんやらに毒されていますw
革のケアはやりすぎよりも、やらなすぎる方が良いくらいです。
その理由もきっと今回読み進めて頂ければ、知って頂けると思います。
前置きはここらへんにしておいて、とりあえず磨いていきましょうw

まずは馬毛ブラシで埃を払っていきましょう。
馬毛は豚毛に比べて柔らかいので、埃を払うのに適しています。
(この靴の写真をみて驚かれた方がいるかもしれませんが、今回はそちらには触れていきませんので悪しからず。。。w)

埃をしっかり払ったら、次は布に少量のデリケートクリームをとって靴を磨いていきましょう。
この時のコツは革靴表面の汚れを取るイメージで磨くことです。濡らしてきつく絞ったタオルでテーブルを拭くような感じです。
ここで勘違いしやすいのは、このデリケートクリームを利用した工程が、栄養を入れていく工程だと考えてしまうことです。
この工程における一番の目的は、革表面の汚れを取ることです。
それをデリケートクリームで行うことで、結果的に革の栄養補給になります。
これを勘違いして栄養補給として行ってしまうと、必要以上にクリームを入れ込むことになります。
なんせデリケートクリームは水性クリームであるため、際限なく革が吸い取ってしまいます。
これは革にも良くありませんし、クリームの無駄使いです。
そもそもテーブルを拭くときに、ビショビショのタオルを使うでしょうか?
きつく絞ったタオルを使いますよね。
理屈はそれと同じです。
ここからは少し愛好家視点で追記するので、興味のない方は次の写真まで飛ばしてください。
たぶん読むだけ時間の無駄になるかもしれませんw
革靴愛好家の方なんかは、汚れ落としとしてデリケートクリームを使うことを不思議に思うかもしれませんが、この方法、実はとても理に適っているんです。
そもそもイタリア工房では、汚れ落としとしてデリケートクリームが認識されているくらいです。
日本では汚れ落としといえば、なんちゃらリムーバーなるものを使いますが、こちらではこのなんちゃらリムーバーなんてものはほとんど使われません。
このリムーバーで汚れが落ちるメカニズムを考えれば自ずと、その理由がわかります。
リムーバー系はアルコール類の揮発により、革内部の汚れを浮き上がらせます。
揮発により浮き上がった汚れをふき取るというのが、リムーバーによる洗浄効果です。
各社が出しているリムーバーの強さは、基本的にこのアルコール類の濃度に依存しているといえます。簡単に理解するのであれば洗浄力が強いというのは、揮発性が高いとほぼ同義という認識です。
ここで質問です。
皆さんは何を目的に革の汚れ落としをしていますか?
日々の使用による汚れを落とすため、古いクリームを落とすため、古いワックスを落とすため、シミを取る為など様々だと思いますが、おそらくほとんどの場合最初の二つがその理由ではないでしょうか?
では日々の汚れ、古いクリームのそれぞれはどこに付着した汚れでしょうか?
これらは革表層に付着したものですよね。
つまり革内部の汚れを落とすリムーバーを使う必要は全くないといえます。
それではワックスも同じでしょうか?
ワックスの場合は少し異なります。
というのも、厚塗りしたワックスの場合、これを溶解させるのにアルコール類の力が必要です。
シミはどうかというと、これは何によるシミかによって変わってきます。
水ぶきで対処する場合もあれば、アルコール類を使う本格的なやり方が必要な時もあります。
ただこの場合リムーバーはかなり中途半端になりがちで、かなり限定的な立ち回りになります。
実際リムーバー使用が最も効率的になる場面は、厚塗りしたワックスを除去する時というのが現実に多く遭遇する場面といえるかもしれません。そもそも超厚塗りしたシューシャインなんかは、リムーバーでは対処しきれない場合も多々あります。
つまりリムーバーが必要とされる場面はほとんどないのです。
表層の汚れを取るにしては大げさで、頑固なシミを取るにしては弱すぎるのです。
それを理解せずにリムーバーを表層の汚れ落としに利用していると、ちょっとした弊害があります。
そもそも表層の汚れだけをとればいいのに、内部の栄養まで取り去ってしまい、さらにいえば色素すら抜いていってしまう危険があります。
一度だけでは目に見えてこのようなことが起こることはありませんが、メンテナンスは繰り返し行われるものなので、いつかはこの弊害が表れてくるはずです。
ここまで理解した上で改めてデリケートクリームみると、如何に理想的な汚れ落としか理解できると思います。
デリケートクリームは水分量の多い栄養クリームです。
革は水分を吸収しやすい為、水分量の多いデリケートクリームは栄養素を効率的に革へ浸透させることが出来ます。
さらに水にはアルコール程ではありませんが、若干の揮発性があります。
雨染みにはきつく絞った熱めの水で濡らしたタオルを利用しますが、これはそれを見てとることができる良い例です。
つまりデリケートクリームは革表層の汚れを浮き上がらせつつ、必要な栄養を補給できてしまうんです。
正に一石二鳥ですw
今回私が利用しているデリケートクリームは、あるイタリアメーカーにこの洗浄効果と栄養補給のバランスを調整して仕上げてもらった特注品ですが、一般的に流通しているデリケートクリームでも同じ用途で使うことが出来ます。というより、こちらでは同じ用途で使われています。

さて、固く絞ったタオルでテーブルを拭く要領で磨いた靴がこちらですw
全体的に磨き終えたら、次にもう片方の靴も同じようにやっていきましょう。
もう片方をやっている間に、先に終えた靴表面が乾いてくるはずです。
両方とも全体的に磨き終えたら、乾いたのを確認して、更にそれぞれ豚毛のブラシでブラッシング、そして再度布で磨き上げていきます。
つまり
固く絞ったタオルでテーブルを拭いた後、乾かして、さらに乾拭きするようなイメージですw
乾拭きする前にブラッシングの工程がありますが、先に余分なクリームをブラッシングで取除いてしまうことで、より乾拭きの効果を上げるようなイメージです。
ここで一つ重要なことを。。。
革磨きで一番大切なことは
「余分なクリームを残さないこと」
につきます!
塗るよりもよっぽど磨くことの方が重要です。
塗り過ぎて磨きの甘いメンテナンスをするくらいなら、何もしない方が良いくらいですよ!
覚えてしまえばここまでおそらく3分くらいでいけるはずです。
一言アドバイスをするのであれば、神経質にならず、若干やっつけくらいの感覚でテキトーに行うことですw
きれいにやろうとするよりは、さっさと終える感覚の方が結果は良いはず。

ここまでを終えるとこんな感じになります。
ブラッシング、更なる磨きを行うことで、更にマットな表情になります。
まったくもって輝きのない、曇った表情の革靴の出来上がりですw
靴だろうが鞄だろうが、ここまでの工程ではこんな感じのマットな表情になります。
魅力ないですか?w
我々の場合、この状態から革の品質を判断します。
その視点でいえば、この表情はたまらなく魅力的ですw
我々にとって革の輝きなんてものは、副産物みたいなものなんです。
我々が見たい、そして見せたいのは、実はここです。

レースステー(靴紐周辺)のこの革のきめ細やかさ、これが我々が見たいところであり、見せたいところなんです。
良い革というのは、このマットな状態にこそ最も美しいキメが表れます。
(これは余談ですが、このキメをどうにか表現がしたくて今回のデリケートクリームは特注しましたw)
私がこちらで推奨する革メンテナンスは、ほぼほぼここで終わっていると言っても過言ではありません。
ここからは消化試合です。。。w
というのも、ここからはこのキメを魅せるための仕上げに移っていきます。
そこで次に使うものが、こちらです。

皆さんが、おそらく絶大な信頼を置いていると思われる乳化性靴クリーム、所謂 The 靴クリームです。
手元に日本で市販の靴クリームがないので、特注クリームを使っていますが、ここで利用するクリームもなんでも良いです。
そもそもここからは消化試合w
気楽にいきましょう!
私が紹介する方法は、ここからも一般的なメンテナンス方法とは少し異なります。
通常であればこのクリームを布に少量取った後、全体に塗り込んでいくと思います。
しかし今回紹介する私の方法は、布にクリームを極少量とった後、つま先とかかと部分だけに塗り込んでいきます。
つま先と、かかと部分だけなので、この時利用するクリームは米粒くらいの量です。
これをつま先とその周辺、かかととその周辺に伸ばしていきます。
その他の部分はデリケートクリームで仕上げたまま、マットな表情で残しておきます。

つま先とかかとにクリームが塗れたら、ブラッシングをしてつま先、かかと全体にクリームを馴染ませ、少し乾くまで放置しましょう。
片方クリームを塗ったら、もう片方に塗るという、デリケートクリームの時と同じやり方をすれば時短出来ます。
クリームもすぐに乾くので、両足へのクリーム塗りが終わったら、再度ブラッシングをして余分なクリームを取り、さらに布(画像ではポリッシュグローブ)でクリームを塗ったつま先、かかと周辺を軽く磨き上げていきます。
乳化性クリームにはロウ分が入っている為、それを添付したつま先とかかと周辺を磨くことで、その部分に光沢が出てきます。
これは言い換えれば、デリケートクリームだけで処理した部分にはロウ分による光沢はなく、マットな表情が残るということです。
実はこれ、今回紹介している私の革メンテナンスにおいてとーっても大切なポイントです!
なにはともあれ、ここまで行えば私の靴磨きは終了です。
簡単に順序をおさらいすると
1、馬ブラシで埃を払って→
2、デリケートクリームを塗って→
3、デリケートクリームを豚ブラシでブラッシングした後、布でしっかり磨いて→
4、乳化性靴クリームをつま先とかかと周辺に塗って→
5、豚ブラシのブラッシングで馴染ませ、その後同じブラシでブラッシングし、布またはポリッシュクロスで磨き上げる
これだけで終わりです。
重要なのは何度も言うように、しっかりクリームを取除くこと、つまり磨くことです。
そしてテキトーにやること!
なれると10分かからずに終わりますw
二ヵ月に一回、これくらいであればなんとかやろうと思えるはず!
私はそれでもメンドクサくてやらないことが多々ありますがw
そうして出来上がった靴がこちらです。。。

ワックスでピカピカに仕上げられた靴とは、全く違う印象をうけませんか?
革のキメが浮き上がるような印象を受けるはずです。

とはいえ適当につま先とかかと周辺だけにクリームを塗っただけにも関わらず、こうしてみるとつま先も掛けた手間に比べてだいぶ光沢感が感じられるはずです。
これは決してクリームの品質や技術によるものではありません。
実際、私は靴磨きが得意ではありませんw
靴磨きは単なる苦痛ですからw
それではなぜこのようになるのでしょうか。。。?

実はこれ視覚効果なんです。
私がイタリアでモノ作りに携わるようになって、一番驚いたのがこの「視覚効果」に対するイタリア職人のアプローチでした。
イタリアの優秀な作り手は皆、人間の脳がどのようにそのモノを捉えるか熟知しており、そしてそれを念頭に入れて自らの作品を作り上げます。
これは決してモノ作りの現場だけではありません。
大手高級ブランドのマーケティング、クラシック音楽、絵画の世界でも現在は頻繁に研究されていることです。
少し簡単に説明すると。。。
ここからは興味がある方だけ読んでくださいw
たぶん長くなります。。。
人間の脳は強弱を正確に認識することに長けていません。
全てを正確に計算するコンピューターとは異なり、多くの情報量を効率よく処理することに長けているのが我々の脳です。
例えば経験した情報から、推測したり、何かを基準に判断したりすることで、状況に合わせて即座に我々は反応することが出来ます。
ただこの方法、処理速度が非常に早い分、多々誤認が起こるんです。
例えばだまし絵なんてものがありますが、これに騙されるのはこうした脳の誤認が理由です。
野球の緩急をつけたピッチングなんてのも同じ理由で有効ですw
雑な言い方ですが人間の脳は、なんとなーく経験や基準などを元に理解することで、同時にすさまじい量の情報を処理することが出来るわけです。
なんだかけったいな話になってしまいましたが、今回の靴磨きによる効果も全く同じことです。
マットな部分と、光沢がある部分がわかれていることで、脳はその部分部分に強い印象を受けます。
マットな部分がある為、光沢をより強く感じ。
光沢によりマットな部分に注目したときは、より強くキメを認識してしまうのです。

因みにこの靴の磨き方、何も全く新しい方法を私が生み出したわけではありませんw
こちらイタリアの工房では、ずっと昔からこの方法で革メンテナンスが行われていたようです。
この方法は非常に簡単で時間も掛かりません。
更に革にとって理想的なケア方法であり、かつちょっと「知的なレザーケア方法」といえるかもしれませんw
靴磨きが趣味の方からすればかなり物足りない方法かもしれませんが。。。
レザーケアに関してはやり過ぎるよりも、やらなすぎる方が良いというのはイタリア革市場では良く言われることです。
栄養が揮発する前に栄養を繰り返し入れるというのは、乳化性クリームのロウ分層を厚くしているだけにすぎません。
それを避けるために毎度リムーバーを利用していれば、知らず知らずのうちに手入れしているようで栄養が少なく、さらに色の抜けた靴の出来上がりです。
さらにカビも大喜びで寄ってきますw
神経質にならず、なんとなく気が向いたときにこうした簡単なケアしてあげるだけで、革製品のケアは充分ですよ!
ちょっと汚れたなと思ったら、馬毛ブラシで埃を払って、クリームを使わず布で磨いてみましょう。
2ヵ月間はその光沢が蘇るはずです。
今回はいつも以上に気合を入れ過ぎたせいで、投稿までに時間が掛かってしまいましたw
また次の投稿を楽しみにしていただけたら嬉しいですw
それではまた次回!
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